静岡県で系統用蓄電池が急拡大する理由とは?主要4社50MW超プロジェクトの全貌

系統用蓄電池

静岡県で加速する系統用蓄電池プロジェクトの全貌

静岡県では、サーラエナジー、テスホールディングス、静岡ガス&パワー、パワーエックスなど複数の企業が系統用蓄電池事業に本格参入し、2025年から2027年にかけて相次いで運転開始を予定しています。県内初となるサーラ浜松蓄電所(11.4MW)から最大規模の静岡菊川蓄電所(30MW)まで、総出力50MW超の大型プロジェクトが展開されています

これらの取り組みは、浜松市の「太陽光発電導入量日本一」を支える調整力として、また容量市場や需給調整市場での収益確保を目指す新たなビジネスモデルとして注目されています。本記事では、各プロジェクトの詳細仕様、収益モデル、補助金活用状況まで、静岡県の系統用蓄電池事業の最新動向を網羅的に解説します。


■この記事で分かること■


静岡県における系統用蓄電池の導入状況と主要プロジェクト

県内初のサーラ浜松蓄電所(2026年春運転開始予定)

サーラ浜松蓄電所

出力 11.4MW 県内初の系統用蓄電池
容量 69.6MWh(直流換算) 一般家庭約6000世帯分
蓄電池種別 日本ガイシ製NAS電池 コンテナ型48台設置
運転開始 2026年春 2023年7月着工済み

静岡県浜松市に設置される「サーラ浜松蓄電所」は、県内初の系統用蓄電池として注目されています。サーラエナジーが運営するこのプロジェクトは、出力11.4MW、容量69.6MWh(直流換算)の大規模な蓄電設備です。

同蓄電所の特徴は、日本ガイシ製のコンテナ型NAS電池を48台設置する点にあります。NAS電池は大容量・長時間放電が可能な特性を持ち、電力系統に直接接続することで効率的な充放電を実現します。

浜松市が掲げる「太陽光発電導入量日本一」をサポートし、再生可能エネルギーの変動調整に重要な役割を果たします。

2023年7月に着工し、2026年春の運転開始を予定しています。資源エネルギー庁の補助事業にも採択されており、容量市場や需給調整市場への参加を通じて収益確保を目指しています。一般家庭約6000世帯分の1日使用量に相当する電力を蓄電できる規模となっています。

最大規模の静岡菊川蓄電所(テスホールディングス・30MW)

テスホールディングス株式会社が開発する「静岡菊川蓄電所」は、静岡県内最大規模となる出力約30MWの系統用蓄電池プロジェクトです。
容量市場の2023年度長期脱炭素電源オークションで落札した案件として、高い注目を集めています。※容量市場における落札容量は、実際の設備容量とは異なる場合があります。

同プロジェクトの強みは、テスグループが一貫してEPC(設計・調達・建設)、O&M(運営・保守)、アグリゲーション(運用管理)を担当する点にあります。2025年4月に地鎮祭を執り行い、建設工事に着手しました。

収益モデルは、卸電力市場と需給調整市場を活用した最適運用により収益の最大化を目指します。テスグループは2012年以降、500MW以上の再生可能エネルギー発電所開発の実績を持ち、この豊富な経験を系統用蓄電池事業にも活用しています。

静岡ガス&パワーと牧之原市プロジェクトの展開

事業者 静岡ガス&パワー パワーエックス
設置場所 静岡市駿河区 牧之原市
出力 13MW 1,990kW
容量 46.9MWh (定格)7,403kWh
運転開始 2027年度 2026年1月
蓄電池種別 リチウムイオン電池 Mega Power(3台)

静岡ガス&パワーは、静岡市駿河区池田の静岡ガス静岡支社構内に出力13MW、容量46.9MWhの系統用蓄電池設置を計画しています。令和6年度の「再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金」に採択され、2025年中の着工、2027年度の運用開始を目指しています。

牧之原市では、パワーエックスとJA三井リースが連携し、出力1,990kW、蓄電容量(定格)7,403kWhの系統用蓄電池を設置します。パワーエックス製の大型定置用蓄電池「Mega Power」を3台採用し、2026年1月の運転開始を予定しています

これらのプロジェクトは、それぞれ異なる技術・規模・運営体制を採用しており、静岡県内の系統用蓄電池市場の多様性を示しています。各社が容量市場や需給調整市場への参加を通じて収益確保を図りつつ、地域の電力安定供給に貢献する構図となっています。

系統用蓄電池の役割と静岡県での必要性

再生可能エネルギー変動調整としての機能

系統用蓄電池は、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが持つ発電量の変動性を調整する重要な役割を担っています。太陽光発電は天候や時間帯により発電量が大きく変動し、風力発電も気象条件に左右されるため、電力系統全体の需給バランスに影響を与えます。

系統用蓄電池は、再生可能エネルギーによる電力が余剰となる時間帯に充電し、電力不足時に放電することで、この変動を平滑化します。特に静岡県の浜松市は太陽光発電の導入量全国トップを目指しています。

系統用蓄電池の導入により、再生可能エネルギーの有効活用率向上と電力系統の安定化を同時に実現できます。これにより、さらなる再生可能エネルギーの導入拡大が可能となり、カーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献します。

電力系統の安定化と効率化への貢献

電力系統における系統用蓄電池の役割は、単純な電力貯蔵にとどまりません。電力の品質向上、周波数調整、電圧安定化など、電力系統全体の運用効率化に多面的に貢献します。

系統用蓄電池は応答速度が非常に速く、電力需要の急激な変化や発電設備の突発的な停止などに対して瞬時に対応できます。従来の火力発電所による調整に比べて、より精密で迅速な制御が可能となり、電力品質の向上につながります

電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営する需給調整市場では、このような高速応答性能が評価され、系統用蓄電池事業者は調整力として対価を得ることができます。静岡県内の各プロジェクトも、この市場参加を重要な収益源として位置づけています。

浜松市「太陽光発電導入量日本一」との連携効果

浜松市は「太陽光発電導入量日本一」を掲げ、積極的な再生可能エネルギー導入を推進しています。太陽光発電の場合、日中の大量の電力供給が期待できる一方で、時間帯や天候に発電量が左右されるという不安定さの課題があります。

サーラ浜松蓄電所をはじめとする系統用蓄電池の導入は、この課題解決に直接的に貢献します。日中の余剰電力を蓄電し、夜間や電力需要のピーク時に放電することで、浜松市の太陽光発電を最大限に活用できる環境を整備します。

この連携効果により、浜松市は太陽光発電の導入量日本一という地位を維持しながら、同時に電力の安定供給も実現できます。他の自治体にとっても、再生可能エネルギーと系統用蓄電池を組み合わせた地域エネルギーシステムのモデルケースとなる可能性があります。

各企業の収益モデルと市場参加戦略

容量市場・需給調整市場・卸電力市場の活用

市場種別 収益モデル 契約期間 主な参加企業
容量市場 供給能力確保対価 テスホールディングス
需給調整市場 調整力提供対価 年間契約 全事業者
卸電力市場 アービトラージ スポット取引 サーラエナジー他

静岡県内の系統用蓄電池事業者は、複数の電力市場への参加により収益の多角化を図っています。容量市場では、将来の電力供給能力として評価され、安定した収益を目指します。テスホールディングスの静岡菊川蓄電所は、2023年度の長期脱炭素電源オークションで落札し、この制度を活用しています。

需給調整市場では、電力系統の周波数や電圧を安定させる調整力として参加し、実際の調整指令に応じて収益を得ます。

卸電力市場では、電力価格の変動を利用したアービトラージ(裁定取引)により収益を追求します。電力価格が安い時間帯に充電し、価格が高い時間帯に放電することで差益を獲得する仕組みです。サーラエナジーはこのアービトラージを主要な収益源として位置づけています。

EPC・O&M・アグリゲーション一貫体制の構築

テスホールディングスは、系統用蓄電池事業においてEPC(設計・調達・建設)、O&M(運営・保守)、アグリゲーション(運用管理)を一貫して担当する体制を構築しています。

EPC段階では、2012年以降500MW以上の再生可能エネルギー発電所開発で蓄積したノウハウを活用し、効率的な建設を実現します。O&M段階では、自社の保守体制により維持管理コストを抑制し、長期安定運用を確保します。

アグリゲーション段階では、複数市場への最適参加により収益を最大化します。

長期脱炭素電源オークション落札の意義

容量市場の一部として新たに開始された長期脱炭素電源オークションは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた重要な制度です。テスホールディングスの静岡菊川蓄電所は、2023年度のこのオークションで落札された案件の一つとして注目されています。

この制度により、新規電源の建設促進と脱炭素化の同時実現が図られます。落札事業者は4年間の容量収入が保証される一方で、脱炭素電源としての要件を満たす必要があります。系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの有効活用を促進する脱炭素電源として位置づけられています。

長期脱炭素電源オークションの落札は、事業の採算性確保だけでなく、政府の脱炭素政策への貢献という社会的意義も持ちます。

補助金制度と今後の展望

国の系統用蓄電池導入支援事業の活用状況

事業者 採択年度 補助事業名 運転開始予定
サーラエナジー 令和4年度補正 系統用蓄電システム・水電解装置導入支援事業 2026年春
静岡ガス&パワー 令和6年度 再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金 2027年度

資源エネルギー庁が主管する「再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金」は、静岡県内の多くのプロジェクトで活用されています。静岡ガス&パワーの静岡市プロジェクトが令和6年度分に採択され、サーラエナジーの浜松市プロジェクトは令和4年度補正分で採択されています。

この補助金制度は、民間事業者が系統用蓄電システムの導入に要する経費に対して支援を行う制度です。再生可能エネルギーの導入拡大や電力供給の安定化を目的とし、調整力として活用可能な系統用蓄電システムが対象となっています。

補助金の活用により、系統用蓄電池事業の初期投資負担が軽減され、事業採算性の向上が図られます。より多くの事業者が系統用蓄電池事業に参入することで、市場の拡大を期待できます

静岡県・各自治体の関連支援制度

家庭用蓄電池への補助金制度が中心ですが、事業用蓄電池に対する支援を検討している自治体もあります。

国の補助金などを組み合わせるなどして、系統用蓄電池の導入ハードルが下がり、参入事業者が増加していけば、地域全体でのエネルギーシステム最適化が期待できます。

2030年に向けた系統用蓄電池市場の成長予測

経済産業省の長期エネルギー需給見通しでは、2030年度の再生可能エネルギー比率を36~38%とする目標が掲げられています。この目標達成のためには、再生可能エネルギーの変動調整を担う系統用蓄電池の大幅な導入拡大が必要となります。

パワーエックスとJA三井リースは、今後3年間で合計30ヶ所の系統用蓄電所開発を目標としており、静岡県内でも追加プロジェクトの展開が予想されます。テスホールディングスも中期経営計画「TX2030」において蓄電システム関連事業を注力分野と位置づけ、さらなる事業拡大を計画しています

技術進歩により蓄電池のコスト低下と性能が向上していけば、事業採算性の改善が見込まれます。容量市場の拡大、需給調整市場の詳細設計の進展、新たな電力市場の創設により、収益機会の多様化も可能性があります。

まとめ|静岡県系統用蓄電池事業の現状と今後の展望

プロジェクト名 事業者 出力 運転開始予定 特徴
サーラ浜松蓄電所 サーラエナジー 11.4MW 2026年春 県内初・NAS電池
静岡菊川蓄電所 テスホールディングス 約30MW 最大規模・一貫体制
静岡ガス&パワー 13MW 2027年度 グループ初参入
パワーエックス 1,990kW 2026年1月 Mega Power採用

静岡県では、2025年から2027年にかけて総出力50MW超の系統用蓄電池プロジェクトが相次いで運転開始する予定です。サーラエナジー、テスホールディングス、静岡ガス&パワー、パワーエックスという多様な事業者が参入し、それぞれ異なる技術・規模・収益モデルで事業を展開しています。

これらのプロジェクトは、浜松市の「太陽光発電導入量日本一」を支える調整力として、また容量市場・需給調整市場・卸電力市場を活用した新たな収益モデルとして注目されています。国の補助金制度も活用しながら、地域の脱炭素化と電力安定供給の両立を実現する重要な取り組みとなっています。

2030年の再生可能エネルギー比率36~38%達成に向けて、系統用蓄電池市場のさらなる拡大が予想されます。静岡県は、この成長分野における先進地域として、今後も注目される地域となるでしょう。

2025/09/29静岡県で系統用蓄電池が急拡大する理由とは?主要4社50MW超プロジェクトの全貌

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