埼玉県内では2025年に入り、NTTアノードエナジーによる3拠点をはじめ、複数の系統用蓄電池が相次いで運転開始しました。熊谷市、小川町、日高市、本庄市、東松山市など県内各地で複数の大規模プロジェクトが展開されています。リニューアブル・ジャパン、上里建設、Looopなど多様な事業者が参入し、それぞれ事業を推進しています。
本記事では、県内の稼働中施設から建設計画、専門事業者によるサポート体制まで、埼玉県の系統用蓄電池事業の全体像を詳しく解説します。
系統用蓄電池とは、電力会社の送配電網(系統)に直接接続された蓄電池システムです。一般的な家庭用蓄電池とは異なり、電力系統全体の安定化を目的としています。電力価格が安い時間帯に充電し、価格が高くなる時間帯に放電することで、電力市場での収益確保が可能です。
太陽光発電など天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力系統の需給バランス調整が重要な課題となっています。従来は火力発電所がこの調整機能を担ってきましたが、脱炭素化の進展により、初期応答性能に優れた蓄電池への期待が高まっています。系統用蓄電池は数秒から数分という短時間で充放電の切り替えが可能で、周波数調整や電圧安定化に貢献します。
埼玉県では再生可能エネルギーの有効活用と電力系統の安定化を両立させるため、系統用蓄電池の導入が積極的に進められています。余剰電力を蓄電することで出力制御を減らし、再生可能エネルギーを効率的に活用できるようになります。卸電力市場、需給調整市場、容量市場の3つの電力市場で収益を得ることで、事業としての持続可能性確保を目指します。
施設名 | 所在地 | 運転開始 | 出力/容量 |
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埼玉和光蓄電所 | 和光市 | 2025年1月 | 1,124kW/5,304kWh |
埼玉三芳蓄電所 | 三芳町 | 2025年4月 | 1,999kW/9,992kWh |
埼玉鶴ヶ島蓄電所 | 鶴ヶ島市 | 2025年5月 | 1,999kW/9,992kWh |
NTTアノードエナジー株式会社は2025年に埼玉県内3カ所で系統用蓄電所の商用運転を開始しました。埼玉和光蓄電所(和光市)は出力1,124kW・容量5,304kWh、埼玉三芳蓄電所(入間郡三芳町)と埼玉鶴ヶ島蓄電所(鶴ヶ島市)はそれぞれ出力1,999kW・容量9,992kWhの規模です。同社はアグリゲーターとして各種電力市場での最適取引や充放電制御、保守監視を一元的に実施しています。
熊谷市では複数の事業者による蓄電所が稼働を開始しています。しろくま電力が手掛ける柿沼蓄電システム(埼玉県熊谷市柿沼)は出力2MWの規模で、2025年1月20日に運転開始しました。これは株式会社光遊社を事業主とするJYSグループ3件目の系統用蓄電池システムで、東京都「令和5年度系統用大規模蓄電池導入促進事業」の採択を受けています。
同じく熊谷市のみずほリースと東北電力による共同事業「弥藤吾蓄電所」は、GSユアサ製リチウムイオン蓄電池を採用し、出力1.96MW・容量7.46MWhで2025年2月に運転開始予定です。
小川町では合同会社taMEL(Looopが85.1%出資)による「埼玉県比企郡蓄電ステーション」が2025年2月21日に営業運転を開始しました。
蓄電池メーカー | 採用事業者 | 特徴 |
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GSユアサ製 | みずほリース・東北電力 | GSユアサ製のリチウムイオン蓄電池を採用 |
リチウムイオン電池 | NTTアノードエナジー | 3拠点分散配置とアグリゲート技術 |
CATL製セル | SequencEnergy取扱 | 世界基準の難燃性認証クリア |
NTTアノードエナジーは3拠点による分散配置とアグリゲート技術、しろくま電力は一気通貫サービスとAIシステム「Green Map」、Looopは複数電力市場での最大収益化を目指した運用がそれぞれの特徴です。使用する蓄電池もGSユアサ製、テスラ製、ファーウェイ製など多様です。
事業者 | 所在地 | 運転開始予定 | 出力/容量 |
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リニューアブル・ジャパン | 日高市 | 2025年3月頃 | 2.0MW/7.8MWh |
東急不動産 | 東松山市 | 2024年度上期 | 1.8MW/4.9MWh |
上里建設 | 本庄市内 | 2024年5月頃 | 2MW/8MWh |
2025年には埼玉県内で複数の大規模系統用蓄電池プロジェクトが運転開始を予定しています。リニューアブル・ジャパンが日高市で建設中の蓄電所は、容量約7.8MWh・系統出力約2.0MWの規模で、米テスラ製リチウムイオン蓄電池を採用し、2025年3月頃の運用開始を目指しています。上里建設は埼玉県内で系統用蓄電事業に参入しており、ファーウェイ製の蓄電池システム(蓄電容量8,000kWh)を採用しています。
各事業者は異なる技術戦略と事業規模で市場参入を図っています。東急不動産は東松山市でパワーエックス製蓄電池(出力1.8MW・容量4.9MWh)を導入し、パワーエックスの蓄電池システムが国内の系統用蓄電池事業に採用される初の事例です。上里建設は埼玉りそな銀行と系統用蓄電池の購入及び施工資金として3.6億円のグリーンローン契約を締結し、環境配慮型の資金調達を実現しています。
長期脱炭素電源オークションでは、JYSグループが北海道夕張郡の案件で落札を果たし、2027年度完工に向けて進行中です。上里建設の戸矢大輔社長は「太陽光発電所を建設して終わりではなく、再生可能エネルギー電力を有効に使う仕組みをつくる必要があるので、系統用蓄電事業を始めました」と事業参入の経緯を語っており、再エネ事業者の新たな取り組みとして注目されています。政府のカーボンニュートラル政策と電力系統の安定化需要を背景に、系統用蓄電池市場は今後さらなる拡大が見込まれています。
サービス内容 | 対応規模 | 特徴 |
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設計・構築・施工 | 特別高圧100MW/400MWh | 変電所直結モデル対応 |
申請・協議 | 高圧2MW/8MWh | 一貫サポート体制 |
コスト最適化 | 全規模対応 | @30,000円/kWh前後実現 |
SequencEnergy株式会社(さいたま市)は、系統用蓄電所の設計・構築・申請・協議・施工を一貫して手掛ける専門事業者です。特別高圧100MW/400MWhの変電所直結モデルから高圧2MW/8MWhまで、幅広い規模に対応可能です。全メーカーからのダイレクト仕入れが行われています。@30,000円/kWh前後で蓄電池の提供を実現しています。※コストを最優先する場合の選択肢。機能や安定性など総合的な検討も重要
補助金制度では、東京都の「系統用大規模蓄電池導入促進事業」を活用する事例が多数見られます。NTTアノードエナジーの三芳・鶴ヶ島蓄電所、Looopの小川町蓄電ステーション、JYSグループの熊谷市案件など、多くのプロジェクトがこの制度を活用しています。
事業参入を検討する際は、立地選定から各種申請手続きまで専門知識が必要です。SequencEnergyでは系統用蓄電池に関する勉強会の実施や、接続検討資料の作成から本申込まで包括的なサポートを提供しています。成功事例として、上里建設の埼玉りそな銀行との3.6億円グリーンローン契約などが参考になります。
2025年に埼玉県の複数の系統用蓄電池事業が運転を開始しています。NTTアノードエナジーの3拠点体制をはじめ、県内複数箇所で多様な事業者による大容量蓄電所が稼働・建設されています。リニューアブル・ジャパンのテスラ製システム、上里建設のファーウェイ製システム、東急不動産のパワーエックス製システムなど、各社が異なる蓄電池メーカーを採用しています。
政府の2050年カーボンニュートラル目標と電力系統の安定化需要を背景に、系統用蓄電池の重要性は今後ますます高まることが予想されます。需給調整市場の本格稼働により、初期応答性能に優れた蓄電池の経済価値が向上し、事業採算性の改善が期待できます。SequencEnergy等の専門事業者による一貫サポート体制も整備されています。
埼玉県内での系統用蓄電池事業は、再生可能エネルギーの有効活用に重要なインフラとして、今後も持続的な成長が見込まれます。事業参入を検討する際は、立地選定から資金調達、技術選定まで専門知識が必要なため、実績豊富な専門事業者への相談が成功への近道となるでしょう。