千葉県では2024年から2025年にかけて、系統用蓄電池の導入プロジェクトが集中的に進んでいます。旭市、木更津市、君津市、千葉市美浜区など複数の市町村で、出力1MW〜2MW級、容量6MWh〜8MWh規模の大規模蓄電設備が相次いで稼働を開始しました。東京電力管内における電力需給の安定化と再生可能エネルギーの導入拡大を目的とし、容量市場・卸電力市場・需給調整市場での運用を見据えた事業が展開されています。
本記事では、千葉県における系統用蓄電池の具体的な導入事例、技術仕様、市場構造、補助金制度、そして事業参入の実務プロセスまでを網羅的に解説します。
千葉県に系統用蓄電池プロジェクトが集中する理由の一つは、東京電力管内という立地優位性です。首都圏の電力需要を支える東京電力パワーグリッドへの系統接続が可能であり、電力需給が逼迫する際には東京電力管内への電力供給に貢献できる体制が整っています。
2つ目の理由は、東京都による「系統用大規模蓄電池導入促進事業助成金」の存在です。この助成金は東京電力管内への電力供給を前提としており、千葉県内の複数プロジェクトが採択を受けています。シナネン(旭市)、JAPEX(千葉市美浜区)などが同助成金を活用し、設備導入コストの一部支援を受けています。
3つ目は用地確保の相対的な容易さです。首都圏と比べて価格が安価な土地も多く、企業数も多いため、太陽光発電所の空きスペース、物流施設の駐車場未利用スペース、企業の技術研究所構内など、既存施設の遊休地を活用している事例が多く報告されています。プロロジスは物流施設敷地内の駐車場23台分のスペースを活用し、クリハラントは自社メガソーラー敷地内に蓄電所を建設しました。
| 事業者 | 所在地 | 出力 | 蓄電容量 | 運転開始 |
|---|---|---|---|---|
| シナネン | 旭市 | 1MW | 5.3MWh | 2025年8月 |
| プロロジス | 千葉市 | 2MW | 6MWh | 2026年4月予定 |
| JAPEX | 千葉市美浜区 | 1.999MW | 6MWh | 2025年8月 |
| クリハラント | 君津市 | 約2MW | 約7.6MWh | 2025年1月予定 |
| デュアルタップ | 木更津市 | 1.99MW | 8MWh | 2025年内予定 |
千葉県内では2024年から2025年にかけて、少なくとも5件以上の系統用蓄電池プロジェクトが進行しています。旭市ではシナネンが定格容量5.3MWhの設備を2025年8月に稼働開始し、東京都の助成金を活用しました。君津市ではクリハラントが経済産業省の「再生可能エネルギー導入拡大に資する分散型エネルギーリソース導入支援事業」に採択され、約7.6MWhの蓄電池を導入し、2025年1月の運転開始を予定しています。
千葉市美浜区のJAPEX美浜蓄電所は、石油資源開発にとって初の系統用蓄電池事業となり、技術研究所構内に出力1.999MW、容量6MWhの設備を設置しました。物流不動産大手のプロロジスは、国内不動産事業者として初めて稼働中の物流施設敷地内に系統用蓄電池を設置する計画を発表し、2026年4月の運用開始を目指しています。
東京電力管内は日本最大の電力消費地域であり、電力需給の安定化は首都圏の経済活動維持に直結します。再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、太陽光や風力といった自然変動電源の発電量が天候や時間帯に左右されやすくなり、電力供給の安定性に課題が生じています。
系統用蓄電池は、電力系統に直接接続することで余剰電力を吸収し、需要が高まる時間帯に放電することで需給バランスをリアルタイムで調整する役割を担います。2021年に創設され2024年4月に全面開場となった需給調整市場では、電力の需給バランスの調整が行われています。
東京都は「系統用大規模蓄電池導入促進事業助成金」を通じて、電力需給逼迫時における東京電力管内への電力供給体制の構築を支援しています。千葉県内の蓄電池設備は、この要請に応じて柔軟に電力を供出できる体制を整えており、首都圏全体のエネルギーレジリエンス強化に貢献しています。
系統用蓄電池とは、電力会社が運用する電力系統(グリッド)に直接接続し、系統全体の安定的な運用に資する大規模蓄電池設備を指します。一般的な産業用蓄電池や家庭用蓄電池が特定の施設内で使用されるのに対し、系統用蓄電池は電力系統全体の需給調整に活用される点が特徴です。
再生可能エネルギーの導入が進む中で、太陽光や風力などの自然変動電源は発電量が天候や時間帯に左右されやすく、電力の供給安定性に課題があります。系統用蓄電池は、余剰電力が発生する時間帯に充電し、電力需要が高まる時間帯に放電することで、需給バランスを調整する手段として注目されています。
千葉県内で稼働している系統用蓄電池は、いずれもリチウムイオン蓄電池を採用し、出力1MW〜2MW級、容量6MWh〜8MWh規模の設備が中心です。これらの設備は東京電力パワーグリッドの配電線に直接連系され、容量市場、卸電力市場、需給調整市場での取引を通じて電力バランスの最適化を図っています。
系統用蓄電池の性能を示す2つの重要な指標が、出力(MW)と蓄電容量(MWh)です。出力は一度に充放電できる電力の大きさを示し、蓄電容量は蓄えられる電力の総量を示します。例えば出力2MW、容量6MWhの蓄電池は、2MWの電力で3時間連続して放電できることを意味します。
千葉県内の事例を見ると、シナネン旭市蓄電所は出力1MW・容量5.3MWh、プロロジスパーク千葉1は出力2MW・容量6MWh、クリハラント君津蓄電所は出力約2MW・容量約7.6MWhと、プロジェクトごとに仕様が異なります。出力と容量の比率は、参入する電力市場や運用戦略によって最適値が変わります。
需給調整市場では短時間での迅速な応答が求められるため出力重視の設計が有利であり、卸電力市場では長時間の放電能力が重要となるため容量重視の設計が選ばれます。容量市場は供給力の確保が目的であるため、出力と容量のバランスが重要です。事業者は参入する市場の特性と収益性を分析し、最適な出力・容量比を選定しています。
千葉県内の系統用蓄電池プロジェクトでは、全ての事例でリチウムイオン蓄電池が採用されています。
クリハラント君津蓄電所では韓国LGエナジーソリューション製のリチウムイオン蓄電池パッケージを採用し、TMEIC製のパワーコンディショナー(PCS)と組み合わせて運用しています。PCSは蓄電池の充放電を制御する重要な機器であり、系統との電力のやり取りを管理します。
系統用蓄電池では安全性も重要な選定基準です。リチウムイオン蓄電池は発火リスクへの対策が必要であり、多重の安全対策が実装されています。クリハラント君津蓄電所は「火が出る前に停止させる」発想で設計され、温度管理システム、消火設備、異常検知システムなどが組み込まれています。
系統用蓄電池が参入する電力市場は、容量市場、卸電力市場、需給調整市場の3つに大別されます。容量市場は、将来の電力供給力を確保するための市場であり、発電設備や蓄電池が供給力として登録され、kW単位で対価を得ます。電力を実際に供給しなくても、供給力を保有していることで収益が得られる仕組みです。
卸電力市場(JEPX)は、電力を商品として売買する市場であり、30分単位で電力価格が変動します。蓄電池事業者は電力価格が安い時間帯に充電し、価格が高い時間帯に放電することで価格差益を得ます。太陽光発電が多い昼間は電力価格が下がり、夕方から夜間にかけて需要が高まる時間帯は価格が上昇する傾向があります。
需給調整市場は、電力の需給バランスをリアルタイムで調整するための市場で、2021年に創設され2024年4月に全面開場となりました。周波数維持や需給バランス調整のための調整力を取引し、蓄電池は迅速な応答性能を活かして調整力を提供します。千葉県内の蓄電池設備は、これら3つの市場に参画することで多様な収益機会を確保しています。
需給調整市場は2021年に創設され、2024年4月には全商品の取引が開始されました。全面開場以前は一部の調整力のみが取引対象でしたが、全面開場後は全ての需給調整に必要な調整力が市場で取引されるようになりました。
需給調整市場では、応動時間(指令を受けてから実際に調整力を供出するまでの時間)によって複数の商品が設定されています。
(物流不動産の所有・運営・開発を行う企業)プロロジスは千葉市の賃貸用物流施設の敷地内に系統用蓄電池の設置を計画しています。全面開場による市場の成熟を見越して2026年4月の運用開始を計画しています。千葉県内の事業者は、複数の市場に参画することでリスク分散を図っています。
系統用蓄電池の市場取引を実際に行うには、電力市場での取引実務や需給予測のノウハウが必要です。多くの蓄電池事業者は、アグリゲーターと呼ばれる専門事業者に市場取引業務を委託しています。アグリゲーターは、複数の蓄電池や発電設備を束ねて市場取引を代行し、最適な運用戦略を立案します。
JAPEX美浜蓄電所は、市場取引に伴うアグリゲーター業務をE-flow(大阪市)に委託しています。E-flowは蓄電池の充放電スケジュールを管理し、電力価格や需給状況に応じて最適なタイミングで充放電を行います。アグリゲーターは需給予測、市場価格予測、気象予測などのデータを統合し、収益を最大化する運用を実現します。
アグリゲーター業務の委託費用は事業収益に影響しますが、専門知識を持つアグリゲーターを活用することが一般的です。シナネンやクリハラントなど、自社で電力事業の経験がある企業は、自社内で市場取引を行うケースもあります。事業者は自社の電力事業経験とアグリゲーター活用のバランスを考慮し、最適な運用体制を構築しています。
系統用蓄電池の導入は、用地選定から運転開始まで複数の段階を経ます。
第1段階は用地選定であり、系統接続が可能な立地、必要面積の確保、土地価格、周辺環境との調和を検討します。
第2段階は系統接続の検討依頼です。REALPARTNERSは千葉県内の3件の候補用地について、東京電力パワーグリッドに接続検討依頼を行いました。接続検討では、系統の受け入れ可能容量、接続工事の内容と費用、接続までの期間などが確認されます。
第3段階は補助金・助成金の申請です。申請タイミングや制度の有無は最新の情報を確認してください。過去、東京都の助成金などを活用することで、初期投資の一部を支援を受けることができました。
第4段階は行政手続きと許認可取得であり、農地転用、条例対応、建築確認などが必要です。
第5段階は近隣住民への説明会が必要となる場合があります。騒音問題や、事業内容、安全対策、環境影響などを説明し理解を得ます。
第6段階は建設工事。
第7段階が試運転と営業運転開始です。クリハラント君津蓄電所は2025年1月運転開始予定です。
系統用蓄電池の初期投資は、蓄電池本体、パワーコンディショナー、連系変電設備、土地取得費、建設工事費、系統連系工事費などで構成されます。出力1MW〜2MW級、容量6MWh〜8MWh規模の設備では、数億円規模の投資が必要とされます。初期投資の大きさは事業参入の最大の障壁の一つです。
東京都は「系統用大規模蓄電池導入促進事業助成金」を設けており、シナネン、JAPEXなどのプロジェクトが採択を受けています。この助成金は、系統用蓄電池の導入に必要な経費の一部を支援し、東京電力管内への電力供給を要請に応じて行うことが条件です。
経済産業省は「再生可能エネルギー導入拡大に資する分散型エネルギーリソース導入支援事業(系統用蓄電システム・水電解装置導入支援事業)」を実施しており、クリハラント君津蓄電所が令和4年度補正予算で採択されました。デュアルタップも同様の支援を視野に入れています。これらの補助金制度を活用することで、初期投資リスクを低減し、事業の採算性を向上させることが可能です。
千葉県での系統用蓄電池プロジェクトでは、行政折衝と許認可取得が重要なプロセスです。REALPARTNERSは、土地価格の高騰、農地転用、条例規制、近隣住民への説明会など、数々のハードルがあると指摘しています。農地を蓄電池用地に転用する場合は、農地法に基づく転用許可が必要です。
千葉県では市町村ごとに独自の条例が設けられている場合があり、事前の調査と対応が必要です。
近隣住民への説明は、事業の円滑な進行に不可欠です。蓄電池の安全性、騒音、景観への影響、環境負荷などについて丁寧に説明し、理解を得ることが求められます。REALPARTNERSは現地調査から行政折衝、各種許認可の取得まで一貫してサポートするサービスを提供しており、専門的なノウハウを持つパートナー企業との連携が事業成功の鍵となります。
旭市のシナネン蓄電所は、ミライフ千葉支店旭店の敷地内に建設され、定格容量5.3MWh、系統出力1MWの設備を2025年8月に稼働開始しました。東京都の助成金を活用し、伊藤忠商事がサプライヤー、三菱電機システムサービスが建設・施工を担当しました。リチウムイオン蓄電池を採用し、容量市場・卸電力市場・需給調整市場への参画を通じて電力バランスの最適化を図っています。
木更津市のデュアルタップ蓄電所は、不動産デベロッパーが系統用蓄電池事業に参入した事例です。2025年3月に用地を取得し、蓄電システム出力1.99MW(1,990kW)、蓄電容量8MWhの設備を年内の運転開始を目指して建設しています。完成後は蓄電池設備を売却する予定であり、再生可能エネルギー事業者の参入を支援するビジネスモデルを展開しています。
君津市のクリハラント蓄電所は、既存の太陽光発電所の空きスペースを活用して建設されました。出力約2MW、容量約7.6MWhの設備で、経済産業省の補助事業に採択され、2025年1月の運転開始を予定しています。太陽光発電所に併設されていますが、太陽光の電力を充電する再エネ併設型ではなく、系統用蓄電池として独立した連系点から配電線に接続しています。美浜区のJAPEX蓄電所は、石油資源開発の技術研究所構内に設置され、出力1.999MW、容量6MWhの設備が2025年8月に営業運転を開始しました。
千葉県内の系統用蓄電池プロジェクトでは、EPC(設計・調達・施工)業務を担う事業者の選定が重要です。JAPEX美浜蓄電所はJFEエンジニアリングがEPCサービスを担当し、シナネン旭市蓄電所は三菱電機システムサービスが建設・施工を担当しました。
蓄電池本体のサプライヤーでは、韓国LGエナジーソリューションがクリハラント君津蓄電所に採用されるなど、海外メーカーの実績もあります。パワーコンディショナー(PCS)は、TMEIC製が複数のプロジェクトで採用されており、国内メーカーの信頼性が評価されています。
連系変電設備では、クリハラント君津蓄電所がABB製を採用しました。土木工事や電気工事は地域の専門業者が担当するケースが多く、クリハラント君津蓄電所では永塚建設が土木工事、小川電設工業が電気工事を担当しました。EPC業者とサプライヤーの選定は、技術力、実績、コスト、アフターサポート体制を総合的に評価して決定されます。
千葉県内の系統用蓄電池プロジェクトは、用地の活用方法によって3つのタイプに分類できます。遊休地活用型は、既存施設の未利用スペースを有効活用するものです。シナネン旭市蓄電所やJAPEX美浜蓄電所は、自社施設の敷地内に設置されました。
太陽光併設型は、既存の太陽光発電所の空きスペースを活用するものです。クリハラント君津蓄電所は、メガソーラーの敷地内に建設されましたが、太陽光発電と蓄電池は別の連系点から配電線に接続されており、再エネ併設型蓄電池ではありません。元々の空き地面積が不足していたため、太陽光パネルの一部を移設してスペースを確保しました。
物流施設併設型は、プロロジスパーク千葉1の事例であり、国内不動産事業者として初めて稼働中の物流施設敷地内に系統用蓄電池を設置する計画です。敷地内駐車場の未利用スペースを活用し、出力2MW、容量6MWhの設備を2026年4月から運用開始する予定です。
千葉県では2024年から2025年にかけて、系統用蓄電池プロジェクトが急速に拡大しています。旭市、木更津市、君津市、千葉市美浜区の5件以上のプロジェクトが進行しており、東京電力管内という立地優位性、東京都の助成金制度、千葉に土地を持つ企業が多いという3つの要因が集積を後押ししています。
系統用蓄電池は、電力系統に直接接続される大規模蓄電設備であり、出力1MW〜2MW級、容量6MWh〜8MWh規模のリチウムイオン蓄電池が主流です。容量市場、卸電力市場、需給調整市場の3つの電力市場に参画することで、多様な収益機会を確保できます。特に2024年4月に全面開場した需給調整市場は、蓄電池の迅速な応答性能を活かせる有望な市場として注目されています。
事業参入には、用地選定から運転開始までの7つのステップを踏む必要があり、初期投資コストの大きさ、行政手続きの煩雑さ、市場価格の不透明性などの障壁が存在します。しかし、東京都の補助金制度を活用し、EPC業者やアグリゲーターなどの専門パートナーと連携することで、これらの障壁に対応することが可能です。
シナネン、JAPEX、プロロジス、クリハラント、デュアルタップなど、エネルギー企業、石油資源開発企業、物流不動産企業、総合エンジニアリング企業、不動産デベロッパーと、多様な業種からの参入が進んでいます。遊休地活用型、太陽光併設型、物流施設併設型という3つの用地活用モデルが確立されつつあり、各事業者が自社の強みを活かした戦略を展開しています。
千葉県の系統用蓄電池市場は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて今後も拡大が見込まれます。再生可能エネルギーの導入拡大と電力需給の安定化という社会的課題の解決に貢献しながら、事業者にとっても新たな収益源となる可能性を秘めています。千葉県の先行事例は、全国の系統用蓄電池プロジェクト展開の参考となるでしょう。